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本当に怖い雷・雨 その2

岩の上で考えた。雨は上がりそうにない。今上がっても水かさはしばらく増える一方だろう。無理してでも渡るのなら早い方がいい。

カメラはダメだな。竿も持ったままじゃどうかな。ずぶ濡れは仕方ないな。よし、泳ごう!

と何回か思うのだがなかなか飛び込めない。冷静になれ!と別の自分が引き止める。

確かにココは深いけれど流れがゆっくりだし落ち込みまでそこそこあるから泳げる。それは間違いない。

しかし、その後はどうだ?すぐ下のナメになっているところは流されるから渡れない。

斜面を昇って下に出るルートがあるらしいけれど今日も上がる時にみたけれどわからなかった。

仮にそこもクリアしたとして安全な山道に出るまでにさらに2回ほどは渡らないといけない。

そこは流れが強くて絶対泳げない。流されたらアウトだ。

結論。泳いででも下ろうという選択はない。




考えているうちにも水かさは増し、立っている岩のあたりまで来ている。10分くらいで5〜10cmは増水している。

野宿するしかない。幸い昼飯の残りのパンが1食分くらいはある。水も300ccくらいは残してある。

この季節だ、凍死はないだろう。それでも雨がしのげる方がいい。どこかなかったか?

それに捜索が入った時、一番発見されやすい所に居た方がいいだろう。どこだ?少なくともここではない。少し上流に戻りながら探すか。




と、考え始めてようやく1本のルートを思い出した。はるか上の方に道路が走っている。そこに出る山道があった。

それは上の堰堤の上から上がれたはず。その道路はかなり遠回りになるけれど上がってしまえば野宿は避けられる。自力で帰れる。

よし、行こう。上流のそこまでなんどか渡らないといけないところもある。もう遅いかもしれないけど行こう。



降りてくる時とは明らかに流れが変わっている。歩いていた所がすでに水につかっていたりする。

とにかく野宿という選択もあるのだから、あわてたり急いだりして足を滑らして怪我をしたり流されたりだけはしないようにしよう。

そう言い聞かせてゆっくりと上がる。大分時間をかけて最初の堰堤の下流まできた。

渡れない。どうやっても無理。この時はじめて叫んだ。くそっ!くそっ!くそっ!

もっと早く思い出していれば。帰りにすぐそのルートをとっていれば。雷を気にせずあるいていれば。後悔ばかりが頭をよぎる。

くそっ!もう腹を括ろう。野宿はしない。自力で無事に脱出してやる。やれるだけやってだめなら仕方ない。




堰堤を巻くルートはなくとも巻けないわけではあるまい。斜面を昇ればなんとかなるかもしれない。

なるべく傾斜の緩やかそうなところを探してよじ登る。ちょっとした尾根が上流方向に伸びている。

そこを越えると多分堰堤の上に出られる。掴める物はなんでも掴んで夢中で昇り下りまた昇りしながら堰堤を越えた。




この時時間は6時。暗くなる前になんとか最低でも登り口までは見つけておきたい。できれば昇り切っていたい。急ごう。

堰堤を越えたすぐ上は比較的流れが緩い。ここを渡れれば堰堤を越える古い道があったから少しは楽に行けるぞ。

水は20cm以上増えているが辛うじて渡れた。この頃にはなにかと声を出していた。くそっ!とかばかやろー!とかざまーみろ!とか。

何に対してかわからないけれど悪態をついて叫んで怒鳴って自分を励ましながら踏み跡を辿って堰堤を目指した。

流れはこれまで見た事のない様相で、数時間前までとはまったく別の川になっていた。

斜面のあちこちに沢が出来、あるいは滝のように水が落ちている。踏み跡の所々は沢が横切り消えている。

時々道を外れながらようやく堰堤までやってきた。もう堰堤は濁流しか見えない。




堰堤を越えると当然だが増水している。いつもはくるぶしくらいまでしかない流れが端の方ですでに膝上ほどになっていた。

昇り口は対岸だ。なんとしてもここを渡らなくては。なるべく流れの弱そうな所を探してはトライしてみる。

しかし、幅7、8mの半分まで行けない。流されそうになる。大きめの石を抱えてやってみるがだめだ。まっすぐ足が出ない。

すぐ下は堰堤。一か八かはない。ダメか。




その時数m上流に3本の大木が倒れているのが目に入った。というか、ようやく気がついたというべきか。

不思議なのだけれど、その木の向こうの流れはどうだろうとか木に掴まって渡れないかとか思ったのに、木そのものを見ていなかった。

3本の一抱えほどの木が岸から岸へ、まるで丸太橋のように倒れている。やや細めの木も一緒に倒れていて

まるでそれは、手すりのように丸太の上に通っている。根っこも土がついたままだからしっかりしている。

恐る恐る上がってみる。びくともしない。行ける。絶対滑らないように手すりの木を掴んでゆっくり渡る。

あっけなく渡れた。助かった。野宿は避けられた。

しばらく座り込んで叫んでいた。ざまーみろ、こんちくしょー!見たかこのやろー!やってやったぞ!

この時すでに6時半。暗くなるまでに昇り切りたい。昇り口を探した。(続く)
by udonfly | 2013-07-05 20:33 | 釣り
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