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本当に怖い雷・雨 その3

昇り口はすぐにわかった。何年か前に1度使ったことがあるだけなのではっきりは憶えていないが迷うような道ではなかったはず。

ただし、かなりの傾斜なので脚にまったく自信のない自分にはキツくて、上りで1時間かかった記憶がある。

その計算だと昇り切って7時半。まだ薄明るさが残る頃には道路に出られるだろう。

ずぶ濡れとはいえ、1台くらいは拾ってくれる車もあるかもしれない。そうすればなんとか8時くらいには連絡できる。




そうなのだ、この溪一帯は結構な観光地にもかかわらず、携帯の電波事情が極めて悪い。自分のはまったく使えない。

なのでこの溪に入る時はかなり手前で相方にメールを送りどこに入るかを伝え、携帯は車に置いておく。上がったら電波の入る所で連絡する。

今日もどこに入るかは伝えてあるが、今どういう状態かが連絡できていない。

いつもココに入った時には遅くとも6時すぎには連絡が入れられるから、もうすでに相当心配している可能性がある。

あまりに連絡が遅い場合はLW店長に連絡してどこに入ったかを伝えてアドバイスをもらうよう言ってある。

8時までに連絡できないと捜索願がでるかもしれない。LW店長はじめいろんな人に心配・迷惑をかける。

ほんとにヒトって勝手なもんで、命の心配が無くなると途端に余計な事が心配になってくる。

かっこわるいなぁとか、金かかるかなぁとか、ぐちぐち言われたくないなぁとか。。。。。




だから、相当脚にもきていて息も切れるし休みやすみ昇りたいのだが、気持ちは焦っていて、ぶつぶつ文句をつぶやきながら昇る。

30分ほど昇って、時間的には半分は昇っただろうと思う頃、少し長めの休憩をとる。かなり限界に近かった。

残してあったパンとは別にカロリー補充食を1箱持っていたのを思い出し、少しの水とともに腹に入れる。

パンはもう残しておく必要はないのだが、疲れすぎてとても口にする気になれない。水はまだまだ必要なので半分は残しておこう。

幸い雨は小降りになり、空も少し明るさを増したような気がする。もう少しだ、頑張ろう。

と木に掴まり立ち上がったときにガラガラガラガラと低く鈍い音が聞こえ掴まっていた木がぶるぶると震えた。

すぐにドカーン、ドカーンという音にかわり足下も揺れ、崩落だとわかった。多分100mも離れてないだろう。

ここまで来てそんなのに巻き込まれたらたまらない。必死で先を急ぐ。




その道にはいきなり出た。ガードレールが見えた時には思わずため息がでた。はぁ〜、助かったぁ。

時間は7時半。1台も掴まらなければ8時は過ぎるだろう。捜索願が出るかもしれない。それはもう仕方ない。

今は目の前のことだけ考えて、1歩でも車に近づくよう歩こう。

座り込みたい気持ちを抑えてガードレールをまたいで久しぶりの安全な下り道を歩き出す。

右がいいか左がいいか、後ろからぶつかられては避けられない、右を行こう。

あ、でも、左を行く車を捕まえたいから左の方がいいか。

もうすぐ暗くなるし、そういえばライトは持っていたはずだが電池は足りるか。

左側を歩きながらライトを探して着けてみる。たしか、新品でまだほとんど使ってないはずだ。防水を選んだハズだ。

後ろからくる車にわかるよう後ろも照らしながら歩こう、と意識的に手を振りながら歩き始めてスグ、車の音が聞こえた。

そのときまだ小雨が降っていたのでフードを被っていて近づくまで聞こえなかったようだ。

なるべく道路の端によって、と後ろと路面を照らしながら止まった所でもう通り過ぎてしまった。

手を振ったけれど止まらなかった。まぁ、仕方ない。次に期待しよう。




しばらくすると急に、本当にスイッチを切ったかのように暗くなった。道路に街灯はない。

試しにライトを消すと自分の手も足も見えない。息が詰まりそうなほどの暗闇。

空を見上げると山と空がかろうじて見分けられる程度の明るさ。ライトがあって良かった。後は電池が保ってくれれば。




最初の1台が通り過ぎてから10分か20分かたったが車は1台も通らない。おかしいな、とようやく思う。

この道はかつて料金をとっていたいわゆる有料道路で、冬季は封鎖される観光道路だ。

以前は気づかなかったが、もしかしたら時間制限があったかもしれない。

もしかしたら、7時閉鎖かもしれない。そういえばさっきの車黄色い回転灯を上に着けてなかったか?

最後の見回りか?だとしたら、、、、、この先何キロあるかわからないけれど歩くしかないことになる。

しばらく幾ばくかの希望を持ちながらも覚悟をきめなきゃ、と自分に言い聞かせつつ下る。

たまたま照らしたところの小さな標識に「11.4」とあった。しばらく気をつけながら歩いて見つけたのが「11.3」。

認めたくないが恐らくこの道路のゲートまでの距離だろう。ということはあと2時間は歩かないといけない。




下るだけと思っていた道はときどき緩やかではあるが何キロかにわたって昇りになったり

すでに方向感覚は無くなっているけれども、間違いなく目的地とは反対方向に向かってカーブしているだろうと思われたり

距離を示す標識は確実に100m単位でしか減らないし、

あえて見ないようにしてがむしゃらに歩いても期待した程に減っていなかったり、

「動物注意」の看板が妙に生々しく感じられ、

実際、何かはわからないが猫ほどの動物がすぐわきを走り抜けていったり。

野宿はあり得ない、こんなのは耐えられない、でも、歩くのもつらい、とか気分は最悪。

時間だけは確実に過ぎてゆき、9時半を指す時計を見た時には、相方はじめ家族の心配を思って申し訳なく思い

おそらく迷惑かけているに違いないLW店長やもしかしたら連絡が行っているかもしれない釣友たちに申し訳なく思い

こんなことになるのなら思い切って泳いで下った方がよかったのではないかとか、

そもそも2つ目の堰堤で引き返していればなんのことは無かったじゃないかとか、

頭をめぐるのはマイナスでネガティブで気が滅入ることばかり。気力が衰えるってこういうことを言うのだろうと後でおもった。




標識の数字が「1.9」になった頃から少し元気を取り戻す。腹は括ったしもうスグだ。

ゲートが見えた時にはちょっとほっとした。気持ちにも少し余裕ができていたと思う。

ゲートのわきに通り過ぎていった車が停まっているのを見つけてもさほど腹はたたなかったから。




ゲートを越えると駐車した所までは上りになるけれど1キロか2キロ。なんとか自力で帰って来たぞ。

そう思いながら歩いているとき前方に車のライトを見つけた。道の端によけて通り過ぎるのを待っていた。

その車は通り過ぎず横で停まった。パトカーだった。こうしてワタクシは無事、保護された。(続く)
by udonfly | 2013-07-06 17:51